非@食べ歩き

食の本〜感想・記録・書評みたいなこと。食のニュース批評・食文化の研究を通して食事力を鍛えてます
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カレーライスの話
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古い本なので、まず趣旨を引用をしておきます。

本書は、カレー料理の秘伝を公開する、というたぐいの本ではない。カレーライスは、今では、国民食の一つと言ってもよい程に、広く普及してしまった。その事実は、日本人の台所にとってどんな意味をもっているのか。あるいは、いつから、何が、これだけ広くカレーライスを普及させたのか。それらの点について、あれこれ穿鑿(せんさく)してみよう、というのがねらいである。


以上、「はじめに」より。

 本書の刊行当時(83年)、カレーライス、サンドイッチ、やきそば、スパゲティー、目玉焼きの五つを現代っ子の好物だとして、その頭文字「カサヤスメ」転じて「母さん休め」という言いまわしで、母親の手抜き子育てを批判する風潮があったとされます。そして、それら伝承の味にあらざる料理を国籍不明の無国籍料理とみなし、やがて亡国の原因になるという論調がひろまりかけていたといいます。

 現代ではいくらか想像しづらいところでもありますが、話をファーストフードとスローフードあるいは伝統食に置き換えてみれば、まあ言ってることは昔も今も同じだとわかります。

 そんな亡国論者を

「合理的な論理ではなく、ある種の主観的な心情でより分けているのである。もとになっているのは自分本位の主観的心情であって、理性ではない」

と批判したうえで、

「その主観的、心情的な伝統主義が人びとに植えつけた、カレーライスは国籍不明の料理であるという誤解を、そのまま許容してしまうことになるから〜中略〜発言しておかなければならない」

という動機からうまれた本である。と著者は記します。

 だがしかし、カレーライスの持つその無国籍性は、逆に日本料理文化のある可能性をいい表していると著者はいいます。
 その可能性とは、日本の料理文化が、世界の民衆がものを食べる上での何らかの知恵を学び取れるような、普遍性を持つ食文化を創造できるということです。

 ではなぜ、日本料理文化をそのように考えることができるのかということを、カレーライスの誕生と歴史を掘り下げ、そこから見える民衆の知恵や創造された文化を評価するなかで見いだしていこうとういうわけです。
 またその上で、いまや民衆に代わり、産業がその主役と化しつつある現代の食卓をどんな姿に改めればよいかということを考える本でもあります。

 ならば、日本のどんな文化がカレーライスを生み出したというのでしょうか。著者はこう語ります。

 日本洋食の歴史の始まりは、大衆一般の舶来の味に対するあこがれにあった。そしてその次にそのあこがれを日常食卓の上に具体化する生活の知恵があった。
 海の外から入ってきた新しい文化を自分のものにしているゆく過程で、自己流に作りかえてしまう知恵があった。生活の条件がちがうがために、そのままでは受容れることができないものを、受け入れ可能な形に作りかえてしまう、本能的な知恵であり暮らしの技術である。


 ここでいう生活の知恵や、暮らしの技術とはカレーライスに当てはめるならば、汁かけめしの文化もその一つと言える。(そのことは『汁かけめし快食學 』遠藤哲夫 著 を参照されたい)

 ただ今日の問題は、われわれ日本人が、あるいは個々人が、脈々と築き上げてきたそういう知恵や技術を顧みず、外からの情報や刺激に大してあまりに無節操に反応しすぎで、その主体性を失っていることかもしれない。外部に規定された私に適わないと勝ちだ負けだと騒ぐ。バカらしい。

 私の妄想で日本人論を語るにはしのびないけれど、
食べるというあくまで個人的な事象に限れば自省を含めて言いたいことはある。
 われわれはダイエットや健康という外部情報に翻弄され、しょせんは市場経済という手の平の上でのグルメに興ぜんと血道をあげる。死なぬための燃料よろしく体に注入するかのごとき「配合飼料型」のエサを摂り、それをよしと家族や、社会でのパートナーにも強いるのである。
 
 腹が減った者同士、食卓を囲めば楽しい。それだけのこと。
献立が高級フレンチだろうとチキンラーメンだろうと本当は関係ないんだと思う。

 久しぶりに家族が外出して一人、(冷凍)イサキを焼きつつビールをあおり、孤食のわびしさを肴に、酔っぱらいの勢いにまかせ誰に読まれるともしれぬダラダラに自己陶酔して、まあ結構たのしい。

『カレーライスの話』
江原 恵
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