イギリスでは世界初の商用鉄道が走り始め、徳川幕府下の日本にはたびたび外国船が現れ始めた。そんな時代のフランスで、食べること、生きること、そして楽しむこととは何か。そういう人間哲学を綴ったのがこの美味礼讃です。
味覚や消化のメカニズムといった人体生理の解説があるかと思うと、チョコレート(飲み物)のいれ方をマニアックに語ったりと、インテリのくせに、親しみのある食いしん坊な感じがおもしろい。
食いしん坊といえば、本書ではグルマンディーズ、すなわち美食愛、うまいもの好き、食道楽についての著述が秀逸です。著者はグルマンディーズを
と定義しますが、そのうえで「グルマンディーズが夫婦間の幸福に及ぼす影響」として語る部分がステキで、あぁそうだよなぁ、自分もグルマンでありたいなと思わせられた一冊です。「特に味覚を喜ばすものを情熱的に理知的にまた常習的に愛する心である」
部分的な引用で十分に伝わるか分かりませんが、続きを読むに・・・にそのステキな部分を引いておきます。
美味礼讃 (上)
ブリアーサヴァラン著 、関根 秀雄 、戸部 松実 訳
美食家(グルマン)の夫婦は、少なくとも日一回は、相会う愉快な機会を持つ。まったく、その寝床を別にしている人たちも(その数はずいぶんたくさんある)、食事だけは一つのテーブルの上でする。かれらは尽きざる話の種を持っている。かれらは現にその時食べているものの話をするだけではなく、かつて食べた物、いつか食べたいと思う物、よその家で見てきたもの、最近はやりの食べ物、新案の料理等々について話しあうそのうちとけたおしゃべり(いわゆるchit-chitべちゃくちゃ)には、言うにいわれぬ魅力がある。
なるほど、音楽もまたそれを愛する夫婦にとってはきわめて大きな魅力であろう。だがそれは特にとりかからなければならない。それはやはり一つの仕事になる。
それにわれわれは時には風邪もひく。楽譜がみえないこともあれば、調子が合わない日もある。頭痛のする日もあるから、自然お休みもある。
ところが両方に共通の要求はふたりを食卓に吸いよせる。同一の傾向はふたりをそこにひきとめる。かれらは自然にお互いのことを考えあい、いたわりあうようになる。だから毎日の食事がどんなふうであるかということは、人生の幸福に大きな関係を持つ。
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